調査員のおすすめの逸品 №292 ちょっとレトロだけど、自慢の機械-真空凍結乾燥機(その2)

写真1 真空凍結乾燥機(大)

写真1 真空凍結乾燥機(大)


 発掘調査で出土する遺物の中で、木製品は劣化をしやすいもののひとつです。水分を多く含んだ土の中で、空気に触れないなどといった特定の環境でしか腐らずに残ることができません。たとえ残ることができたとしても、水を含んだスポンジのようなブヨブヨの状態になっていることが多くみられます。もし、この状態から乾燥させてしまうと、水の表面張力によって変形や収縮をして元の形が失われてしまいます。そのため、木製品の状態(形)をできるだけ維持し、せっかく見つけ出した貴重な資料が失われることがないように、様々な方法を用いて保存処理を行います。
 その方法のひとつに、真空凍結乾燥法と呼ばれる方法があります。お湯をかけるとカラカラに乾燥した状態から元に戻るお味噌汁などのフリーズドライ食品を作るのにも利用されている方法です。乾燥させるものを-40℃程度で凍結させたのち、気圧の低い真空のような環境で乾燥させていきます。私たちが暮らす多くの場所では水は約100℃で沸騰しますが、気圧が下がると沸点も下がっていきます。真空のような極端に気圧の低い環境になると、沸点は-20℃以下になります。このような温度になると水は氷となっているため、氷の状態から水蒸気になって蒸発していきます。これは固体が液体にならずに気化する昇華(しょうか)と呼ばれる現象です。この現象を応用して、木製品の水分が氷となった状態から蒸発させることで、変形や収縮が起こらずに乾燥させる方法が真空凍結乾燥法です。
 滋賀県立安土城考古博物館には木製品の保存処理を行う設備が備えられた部屋があり、大きさの異なる2台の真空凍結乾燥機が設置されています。このうち大型のものは長さ3.2mの木製品まで処理が可能なもので、漆器椀や下駄などの木製品であれば一度に100点以上を処理することができます。小型のものに比べて乾燥する能力も高く、先のような木製品であれば7~14日間程度で乾燥させることができます。平成5年に設置され27年間も使われてきた機械ですが、メンテナンスを行っているおかげで現在も現役で活躍しています。このような大型の機械を埋蔵文化財の保存処理で使用しているところは少なく、貴重な機械です。
 ただ、長らく保存処理を専門に担当していた職員が退職したため、この機械を使いこなすことができる職員が必要となりました。そのため、私を含めた複数の職員がせっかくの機械を活用することができるように、研修や実験を重ねて、後任の育成と処理技術の習得・向上を目指してきました。その結果、当初は、上手く乾燥することができないこともありましたが、適切な工程や方法などについて詳しく教えていただいたこともあって、十分な処理ができるまでに技術を習得することができました。
写真2 漆器を処理する前の作業のようす

写真2 漆器を処理する前の作業のようす


 この処理法は、墨で文字が書かれた木簡を処理するのに適した方法です。温度を加えず、しみ込ませる薬剤の量も少ないため、文字への影響が少なく、色合いも明るく仕上がることではっきりと文字を見ることができます(調査員のおすすめの逸品No19 で木簡の保存処理について紹介されています)。
 さらに、木簡以外にもこの方法に適した木製品があります。先に挙げた漆器椀や下駄などです。漆器は漆の膜が熱によって剥がれたりするため、温度を加えないこの方法で処理をしています。漆が剥がれた際にも修復しやすいように、表面に保護する紙を貼りつけて処理が可能であることもこの方法を用いる利点です。下駄は変形や収縮しやすい樹種で作られている木製品のひとつです。このような木製品は高い濃度の薬剤をしみ込ませた際に変形や収縮が起きるため、低い濃度で処理が可能なこの方法が適しています。このほか、大型の木製品も薬剤を100%しみ込ませると大変重くなってしまうため、しみ込ませる薬剤が少なくより軽く仕上げることができるこの方法を使用しています(写真1は、長浜市塩津港遺跡から出土した直径約51㎝の鳥居の柱です)。
 このように他の方法では処理が困難な木製品やより保管がしやすくなる木製品にも、この方法を積極的に取り入れて保存処理を行っています。
古い機械ではありますが、2台の真空凍結乾燥機は適切な木製品の保存処理を可能にするまさに逸品です。(中村智孝)

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