調査員オススメの逸品 第193回 幻の逸品or迷品!勘違いの「なんちゃって丸木舟」-東近江市蛭子田遺跡出土品

 この連載では、私たち調査員がこれまでに出会ってきた名品・逸品を紹介しています。私自身、発掘調査現場をはじめ様々な場所で「これは!」と思えるようなものを目にしてきました。ですが、時には「これは逸品か!?」と思いきや…ということもあるのです。今回はそのような幻の逸品、というよりも迷品を紹介します。
 蛭子田遺跡は、東近江市木村町にあります。平成21年度から、名神高速道路蒲生スマートインターチェンジ設置工事に伴って、発掘調査を行いました。調査では大きな成果が上がり、その一端をこの連載の第64123139回で紹介しています。また、新近江名所図圖会の第139回でも、蛭子田遺跡に触れています。この登場頻度から見ても、この遺跡がいかに私たちに驚きを与えてくれたかがおわかりいただけると思います。

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蛭子田遺跡 「遺物出土状況」(笑)


 そんな蛭子田遺跡の発掘調査のある日、私は作業員さんとともに、かつての川跡を掘り下げていました。この川跡の上層からは、古墳時代後期頃の木製品がたくさん出土していましたが、それらはすでに取り上げ、下層の砂を中心とした層の掘り下げをしていた時のことです。作業員さんが、「なんかでかい木があるで」と声をかけてくれました。下層ではほとんど木製品が出ていなかったので、まあ倒木の残骸だろうと思いつつ、きれいに検出してもらいました。で、その全貌を見て「ん?これは…?」とりあえず、頭を抱えつつ、隣の調査区で調査をしていた、一緒に現場を担当していた調査員Uさんのところへ向かいました。

私「あの~、ちょっと来ていただけません?」
Uさん「何?どうしたの?」
私「いや、なんか変なものが出てきて…」
Uさん「何が?」
私「え~、丸木舟かな~、なんて…」
Uさん「はあ!?」

 出てきたのは、上の写真のようなものでした。見てのとおり丸木舟の舳先部分が折れてひっくり返った状況だと思ったわけです。写真では右下方向に向いている部分は、まさに尾上浜遺跡(長浜市)や入江内湖遺跡(米原市)などで出土した丸木舟のように、丸太の芯方向に向けて反りながら尖っています。幅も出土丸木舟の標準的なサイズ。写真左上に向かう部分は欠損していますが、これは底部が抜けてしまったのだろうと考えました。

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尾上浜遺跡出土丸木舟


 滋賀県では丸木舟が30例以上発見されており、全国的にも出土が多い地域ではありますが、これまでの発見例は琵琶湖岸に限られています。それが、琵琶湖から10㎞以上内陸で発見されたということがまず驚きです。また、それらの発見例はほぼすべてが縄文時代のものでした。今回の川跡では、縄文土器もごく少量出土していますが、この「丸木舟?」のすぐ横からは、古墳時代前期の土器が出土しています。さらに、材質はどう見ても広葉樹。これまで県内で出土している丸木舟は100%針葉樹製なのに。ということで、これが本当に丸木舟なら様々な面で県内初の事例であり、全国的にもかなり珍しいものとなります。
さあ、ここからが大変です。乾燥してひび割れたりしたらいけないので、頻繁に水をかけて、湿らせたスポンジを当て、上からビニールで巻いて保護しつつ、まず職場の上司を呼んで見てもらって説明し、次に船の歴史に詳しい大学の先生をお呼びして、見てもらって、自分たちでも資料を集めていきました。
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尾上浜出土丸木舟(舳先)


 そして1週間ほどそのようなドタバタを続け、いよいよ取り上げることになりました。気を付けながら「せーの!」で持ち上げてひっくり返してみると…「あれ?」…丸木舟の、人が乗る部分が見当たらない…というか、割れた丸太が腐ったようにしか見えない…。どうやら自然のいたずらで、偶然にも丸木舟にしか見えない形に割れた丸太だったのです。その事実を認めたくなかった私は、「それでも丸木舟かもしれない!」というようなことを主張してみましたが、「いやいや、これは違うやろ」と説得され、しぶしぶ認めざるを得ませんでした。まあ、後から考えるとその片鱗はあったのです。大学の先生も、「この舳先は、削って作ったというよりも自然の反りみたいに見えますね」とおっしゃっていましたし、縁の部分を触ってみた感じも、薄く削っている様子はあまり感じられなかったですし…。でも、最初に形を見てなぜか思い込んでしまい、それに縛られて周りを巻き込み、大騒ぎしてしまいました。本当にお恥ずかしい限りです。あまりに恥ずかしいので、あえて報告書にも写真を掲載しています。しかもその写真の説明が、他の遺物では「遺物(W170)出土状況」とかなのに、「遺物出土状況」という、微妙な表現にしてあるところも笑えます。ということで、この「勘違いが生んだなんちゃって丸木舟」、今では私の中で「幻の逸品」というかっこよすぎる名前の「黒歴史」となっているのでした。(阿刀弘史)

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