調査員オススメの逸品 第182回 繊細優美な縄文人 ‐金森西遺跡出土の漆塗櫛‐

 去る平成28年3月末をもちまして、私が長らく担当してきました守山市金森西遺跡の発掘調査報告書が刊行され、すべての調査が無事に終了しました。金森西遺跡についてはNo.138でご紹介したように、古墳時代前期に玉作りを行っていた集落がみつかり注目されました。

写真1 金森西遺跡出土漆塗櫛

写真1 金森西遺跡出土漆塗櫛

 金森西遺跡は、古墳時代前期がメインとなる時期ですが、一部の調査区では古墳時代の生活面のさらに下の地層から縄文時代後期の土器などが出土しています。今回ご紹介する漆塗櫛(写真1)は、これらの縄文土器とともにみつかりました。出土時の漆塗櫛は非常に脆弱な状態であり、遺物が破損しないように周囲の土ごと取り上げを行ったため、当初は「櫛」ではなく、漆塗りの編み物の破片と考えていました。この時点ではまだ誰も「櫛」であるとは気づいていませんでしたので、精巧に紐を編み込んで黒色の漆と鮮やかな朱を用いて仕上げている様子に、ただただ単純に「縄文人は器用でセンスあるなぁ」と感心していたことが思い出されます。しかし、保存処理を施して土を丁寧に落としたところ、なんと櫛歯が抜け落ちた穴があることが発覚し、「櫛」であったことが判明しました。・・・ところが、その事実は私(だけではなく、おそらく考古学を専門とする人の多く)がイメージする「縄文時代の櫛」のイメージとは大きくかけ離れたものでした。

写真2 粟津湖底遺跡出土竪櫛と内部復元図

写真2 粟津湖底遺跡出土竪櫛と内部復元図

 縄文時代の櫛は、現在の櫛のように髪をとかすためのものではなく、「竪櫛」といって、かんざしのように「髪飾り」として使われていたと考えられています。一般に縄文時代の櫛は、固定した櫛歯の頭の部分を漆などで塗り固めて、表面全体がべったりと漆で覆われているのが通常です(写真2)。ところが金森西遺跡から出土した漆塗櫛は、内部を覆い隠すように漆で塗り固められているのではなく、紐が見える状態で黒色の漆と朱によって装飾的に仕上げていることから、固定している紐を当初から見せる目的で編み込んでいたと考えられます。実はこのような構造をもつ縄文時代の櫛は、現在のところ全国的にみても出土事例がありません。

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写真3 漆塗櫛(CT断層図)             白く見える櫛歯部分は土が詰まった状態

 

写真4 金森西遺跡発掘調査報告書

写真4 金森西遺跡発掘調査報告書

 こうした前例のない遺物であることから、縄文時代を中心とする編組製品(編み物)や櫛を研究されている方に見ていただいたり、表面が漆や朱でコーティングされているため、表面観察ではわからない内部構造を明らかにしようと奈良文化財研究所にCTスキャン解析(写真3)をお願いしたりと奔走しました。
遺物の残存状況や非破壊で分析を行っているため未解明の部分も多いですが、櫛の頭の部分は撚られた2~3本の紐を一組として編み込んで歯の部分を固定し、横の端までくると折り返して上段を編み込んでいくため矢羽状の文様を呈しています。そして表面は黒色の漆とともに朱をまぶして塗り固められ、黒と朱の鮮やかなコントラストが丁寧に編み込まれた矢羽状の紐の美しさと相まって、優美な装いを際立たせています
非常に珍しい逸品であることもさることながら、縄文人の繊細で高い技術と、優美な美的センスを示している貴重な資料といえます。

 金森西遺跡の詳細については、調査成果を取りまとめた発掘調査報告書が県立図書館などで閲覧していただくことができます。少し専門的な内容となっていますが、是非ご覧ください(写真4)。

(小林裕季)

 

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