調査員オススメの逸品 第180回 見慣れた道具の見慣れぬ姿―のこぎり刃カッター―

 各地の博物館や文化財関連施設では、展示や発掘調査を行うだけではなく、文化財のことをもっと知ってもらいたい、文化財を好きになっていただきたいという願いを込めて、様々な体験学習やイベントを開催しています。私たちも夏休みを中心にいくつかのメニューを開催させていただいており、おかげさまで毎年ご好評いただいています。
 これらの体験学習は、授業の一環としての校外学習や、夏休みの自由研究に活用していただくことも多くあります。そういった場合、皆さんが興味を持たれるのはそこで登場する道具や素材です。火おこし道具の素材、鋳物作りの型などなど…。
これらはいくつかに分類できます。まずはごく日常的なもの。たとえば鋳物作りの仕上げに用いる研磨剤などは食器磨きに使うもので、珍しいものではありません。火おこしの火錐臼にする杉板も、どこのホームセンターでも手に入ります。
 一方、まず目にすることはないもの。これには鋳物体験の型、火おこしの舞錐(火錐杵ともいいます)など、その体験学習のためだけに製作されたものがあたります。
 これら以外に、「本来の目的と違う使い方をしているもの」というグループがあり、その中には「比較的珍しいもの」と「非常に一般的なもの」があります。前者は勾玉作りの素材である「ろう石」が代表格でしょうか。これは本来、書道の篆刻を作るための素材です。でも、日常ではあまり目にしませんよね。後者には鍛冶体験の五寸釘が挙げられるでしょう。まさか釘がナイフになるなんて。

写真1 のこぎり刃カッター

写真1 のこぎり刃カッター


写真2 のこぎり刃のアップ 切れ味がわるくなったら折るための線がないのがわかります

写真2 のこぎり刃のアップ 切れ味がわるくなったら折るための線がないのがわかります


 で、ようやく本題です。今回ご紹介する逸品は、「一見非常に慣れ親しんだ道具で、使い方も本来通り。でもこんな姿見たことない!」という代物、「のこぎり刃カッター」(写真1・2)です。
 カッターは皆さんご存知、紙などを切るアレです。日本が世界に誇るカッターメーカー、オルファの製品は大抵のお宅にあるのではないでしょうか。また、のこぎりも簡単なものならどちらのお宅にもあるように思います。ところがこれが合体したものとなると、途端にレア度が上がります。そしてこの合体技が、勾玉作り体験で登場するのです。
 勾玉作りについては以前この連載の「No.87 愛は小学生を救う! -夏休みの工作・自由研究に最適な「勾玉製作キット」♪-」でもご紹介していますが、実はそこでは「のこぎり刃カッター」はでてきません。このカッター、四角い「ろう石」から勾玉の形を粗く切り出す際に用いるので、「製作キット」では必要ないのです。この切り出し工程は、勾玉作り体験においてもっとも難しく、かつケガをする可能性が高い工程なので、基本的に小学校高学年以上でかつご希望があった場合しか実施していません。つまり、それら条件を満たした方しか目にしない道具。おお、さらにレア度が増した感じですね。
 「カッターで切る」という行為自体は当たり前なのですが、「石を切る」わけですから、使い方も感覚も、紙を切るのとはずいぶん違います。普通なら安全のために刃先を短く出しますが、のこぎり刃で石を切るときは、5センチ以上出します(石の厚みがあるため)。けれど普通のカッター刃のように、切れ味が悪くなったら折る、ということはないため、逆にそう簡単には折れなくなっています。また、曲線的に切ることは非常に難しく、直線を何度も切っていくことで曲線的に仕上げます。勾玉作り体験でこのカッターを初めて見る子供たちは、そういった「同じ行為なのに違う使い方をする」というのに非常に戸惑うようで、カッターの刃を長く出すのを怖がったり、曲線が切れないことになじめなかったりすることも多々あります。けれど、文化財とは直接関係ありませんが、これもひとつの「体験学習」なのでしょう。
 数年前に一度、このカッター用「のこぎり刃」替刃の生産が終わる、といううわさが流れたことがありました。勾玉作り体験を行っている文化財関係施設はたくさんあるのですが、この「のこぎり刃カッター」を使わないパターンで行っている施設の方が実は主流です。よって生産が終了しても、大丈夫といえば大丈夫だったのですが、やはりなんとなく寂しく思いました。私の中では、「のこぎり刃カッター」は「勾玉のろう石を切る道具」として定着してしまっているのかもしれません。
(阿刀弘史)

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