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調査員オススメの逸品第163回 埋蔵文化財センターの展示ケース―正しい「鍵穴」?
昨年度に引き続き、今年も「レトロ•レトロの展覧会」を担当することになりました。この展覧会は、昨年度に実施した発掘調査の成果をいち早くお知らせする調査成果速報展で、これを見れば、私どもの協会が昨年に実施した調査のなかから、主な調査成果が一度にわかる、というかなりお得な企画なのです。しかも7月18日から8月31日までの会期中は無休(ただし、土日祝は午後のみ開場)で、しかもしかも入場無料です。さらにしかも、展示パンフレットも無料です!!。
さて、展示の宣伝はこれくらいにしまして、本題にはいります。展示する遺物を展示ケースのなかにレイアウトして、キャプションの札を配置し、作業が終わったケースのガラス戸を閉めて施錠しようとしたさい、ふと鍵穴に目がとまりました。というのは、実に見事な前方後円形だったからです(写真1)。
前方後円墳とは、古墳時代の日本列島に特徴的な古墳の形で、円丘と方丘を連結したような形を呈する古墳のことです。歴史教科書の「仁徳天皇陵」(大山古墳)の写真を一度は皆さまもご覧になったことがあるではないでしょうか。そう、あれが前方後円墳です。
そして、私が学生の頃までは、前方後円墳の形を説明するさいに、先生が「鍵穴形」―つまり、鍵穴のような形―という表現をしていた記憶があります。考古学の概説書にも、前方後円墳の説明文に「鍵穴形」という表現が出てきていました。しかし、今となっては、学生さんや一般の皆さまにたいして、前方後円墳の形を説明しようとして、「鍵穴」のような形です、などといってもわかってはいただけないでしょう。前方後円形をした「鍵穴」などまず見られませんから・・。しらないうちに鍵穴は実に多様な形に変化してしまい、もはや前方後円墳の形を形容するには適さなくなってしまったというわけです。ちなみに、かつては「前方後円墳」の英訳も、a ‘keyhole‐shaped’ tumulus(鍵穴の形をした古墳)でしたが、最近では、an ancient Japanease tomb of a circular shape with a rectangular frontage〔『ジーニアス英和大辞典』〕(前面に長方形を付した円形を呈する日本古代の墓)などという表現に変わってきているようです。
さて、滋賀県埋蔵文化財センターの前方後円墳形の「鍵穴」をもつ展示ケース(写真2)は、もともと現在の滋賀県立安土城考古博物館の前身施設―近江風土記の丘資料館で使用されていたものです。正確な製造年代はわかりませんが、滋賀県立安土城考古博物館の設立以前―平成4年以前であることは確かです。となると、すくなくとも四半世紀以上が―もしかして近江風土記の丘資料館が開館した昭和45年に新造されたとすれば、なんと40数年が―経過したことになります。このケース、とにかく重くて、動かすのもひと手間なのですが、丈夫で歪みもなく、まだまだ十分使えそうですので、今後も活躍してくれるでしょう。
なお、余計なことかもしれませんが、かつて前方後円墳を形容した正真正銘の「鍵穴形」鍵穴は、ケースの背面側にあるので、展示にいらしても普段は見ていただくことはできません。あしからず、ご了承ください。
(辻川哲朗)