調査員のオススメの逸品 第251回 川底に据えられた謎の木枠(東近江市蛭子田遺跡)

このコーナーで私が紹介するのもかれこれ9回目となりました。滋賀県で遺跡の調査に係わり27年経ちますが、実は私あまりヒットすることがないんです。世に当たり屋と呼ばれ、どの遺跡へいっても注目するような遺物を出してくる人、大量の遺物を出してくる人がいます。しかし私の場合はその反対で、時には1点物を出してくる時もありますが、はずれることの方が多いのです。なので、このコーナーの執筆があたると、手持ちの駒が少ない私は、今回は何を紹介したらいいんだろうと非常に悩みます。

ただそんな私にも救いの担当遺跡が1つだけあります。それが私をはじめ調査に携わった調査員達が、これまでに幾度となくこのコーナーで紹介してきた蛭子田遺跡です。たぶん何かネタはまだあるだろうとの思いで、記憶をひもときました。やはりまだまだありました。そこで今回もこの蛭子田遺跡に頼ることにしました。

蛭子田遺跡でみつかった弥生時代後期~古墳時代前期や古墳時代後期に流れていた川の跡から、多種多様な木製品や土器などが出土したことは、これまでに何度も紹介してきました。今回紹介する木枠も、これらと同じく川跡からみつかったものです。

第2区と名付けた調査区からは南北方向の川跡とそれから東側へ分岐する川跡がみつかりました。南北方向の川幅は、広いところでは17mほどになり、深さは120cmくらいとなります。この南北方向の川跡をどんどん掘り進め、ようやく川底まで達するというところで、調査区の南壁になにやら木の板が1枚ひっかかっているのがみえてきました(写真1)。図をとって取り上げようと思ったのですが、よくよく見てみると、この板材の両端に直行して別の木材が組むように見えるではありませんか。最初に見つかった木材は、何か組み物の一部が見えているだけなのではと思い、この周囲だけ拡張することとしました。そうこうして掘り進めたところ、写真2にみるような木枠がでてきました。

写真2 川底に据えられた木枠

写真2 川底に据えられた木枠

写真1 壁の下の方に木枠の一部があります

写真1 壁の下の方に木枠の一部があります

この木枠は、長さ60cm弱から80cm弱、幅11cmから18cmほどの板材を7枚使用して1段2重(北側だけは1重、南側は上に径5.7cmの木材を置いている)に作っていました。内寸で東西約50cm、南北55~60cmの大きさとなります。また東側に設置した板の内側に3本、北東隅の外側に1本、直径2.5cmほどの杭が河床の礫層に打ち込まれていました。これらの杭は木枠を河床に固定するために打ち込まれたのでしょうが、木枠を構成する板材同士には、特にホゾを設けて組み合わたわけでもなく、杭も東側にしか打ち込まれていませんでした。よくバラバラにならず持ちこたえていたものです。このように木枠といってもかなり簡易なもので、使用されている木材の樹種も側板は針葉樹のスギ・ヒノキが6点あり、角材状のもの1点だけが広葉樹のイボタノキ属となります。杭はアカガシ亜族とツバキ族というようにけっこう構成する材にはバラツキがみられます。さらに整理調査の時に1点1点よく観察すると、側板に用いられている材の内、3枚は1枚の板を切断していることがわかりました。また、木釘の残るものもありました。つまり、用いられている材はいずれも専用に加工されたものではなく、要らなくなった材を転用して簡単に組み立てたものなのです。

写真3 側板と杭

写真3 側板と杭

さあ、これはいったい何なんでしょう。川底にどうやって何のために据えたのでしょうか?どうやってという答えは容易に想像できます。おそらく川の水量が少ない時に設置したのではないでしょうか。それでなければこのような簡易なものは設置できないでしょう。問題は何のために据えたのかということです。その辺にある材を用いて簡単に作っていることから、常設を目的としたものではなく、仮設的なものであったのでしょう。これを見たある人は、「その辺で獲った魚をここに入れていたんじゃないか。」と、他人の現場なので無責任に言っていましたが、かといってわたし自身、設置した目的はまったく思いつきません。魚を入れていたとしたら、川に水量が少ない時期に川底が浅くて干上がった部分に木枠を設置し、川底が深くてまだ水が残っている所で魚を捕まえていたということでしょうか。この人は魚籠(びく)を家に忘れてきたため、急遽このようなものを作って獲った魚をここへ入れていたのでしょうか。想像はふくらみますが、はたしてこれはなんなんでしょう。ちなみに、木枠の内側に何か残っているのではと思い、注意深く土を取り除きましたが、何も出てきませんでした。

謎は深まります。

(内田 保之)

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