長年発掘調査をしていますと、時々おもしろい物にあたります。

多景島遺跡から出土した「厄除」カワラケ
現在と全く変わらない形をしている。
この皿は、「カワラケ投げ」といわれる厄除のおまじないに使われた皿で、現在でも琵琶湖の竹生島や京都高雄の神護寺など各地の寺社で行われています。この皿に身体の悪い所や厄を移したり、住所氏名と願い事を書いたりして、高い所から投げ捨てることで身についた穢れを祓う効果があるとされています。
「カワラケ投げ」は、いったいいつ頃どこで始められたのでしょうか。一説には、高雄の神護寺で始まったと言われています。始められた時期は定かではありませんが、酒宴の時に余興として土器を投げたのが始まりだとされています。土師器の皿は、古代から中世にかけては宴会などでよく使用され、しかも一度使えば捨てられていたようなので、おびただしい数の皿が作られていました。「厄除」の文字がいつ頃入れられるようになったのかは不明ですが、はじめは文字などが書かれていない皿を投げていたと考えられます。

神護寺で現在使われている「厄除」カワラケ
島には江戸時代に創建された見塔寺があります。でも、竹生島で今も行われているようなカワラケ投げが、見塔寺や多景島の周辺で現在も行われているという話を聞きありません。となると、湖底から出土した「厄除」皿は、かつて島で行われていた行事の一部が湖底に残されたものであると言えそうです。
時として遺跡から多量に出土する土師器の皿は、そのほとんどが宴会に使用されたものや証明に使われていたものと言えますが、神社や寺の周辺から見つかる皿の中には「カワラケ投げ」に使用されたものが混じっているのかも知れません。
「厄除」皿が出土した多景島遺跡は、琵琶湖開発事業関連14の琵琶湖東部の湖底・湖岸遺跡として報告書が刊行されていますので、興味のあるかたはご覧になってください。
(三宅 弘)