
写真1 ヒメグルミのペンダント(粟津湖底遺跡第3貝塚出土)

写真2 ヒメグルミ穴部拡大(粟津湖底遺跡第3貝塚出土)

写真3 ヒメグルミ裏側の工具痕(粟津湖底遺跡第3貝塚出土)
第3貝塚出土の “くるみ”には、ヒメグルミのほかにサワグルミ10個体分、オニグルミ250個体分の3種類があります。オニグルミは完形を保つものが全くなく自然発芽の2点を除くすべてに、中の実を取り出した打撃痕がみられ、食料として用いられたことがわかりました。サワグルミには人為的な痕跡は認められず、周辺植生に由来するものと思われます。
“くるみ”の核(殻)は大きさも形も変異に富みますが、一般的には、サワグルミは独楽形でほかの“くるみ”に比べてかなり小さくて柔らかく、オニグルミは球形に近くて表面に深いシワがあり核壁はやや厚い。これに対して、ヒメグルミは扁平な広卵形で核頂部の尖りが鋭く、表面が平滑で核壁は薄い。ひとことでいうと、ヒメグルミはしずく形でつるんとしていて、美しいと言えます。3種類は視覚的に明確に区別でき、民俗例でもオニグルミとヒメグルミを区別して乾燥させる例が知られています。

図1 3種類のくるみの形
粟津湖底遺跡では、実のたくさん詰まったオニグルミは食料に、比較的加工しやすくデザイン性を感じるヒメグルミはペンダントに、小さくて食用としても不向きで加工もしにくいサワグルミは自然堆積と、種類ごとに用途や堆積由来が異なっているようです。
こうした“くるみ”核の装飾品には、近年みつかった赤漆塗のヒメグルミのペンダント(石川県射水市南太閤山遺跡/縄文時代早期末~前期前半)のほか、オニグルミの表面のシワを擦り消したり彫刻を施したもの(秋田県大館市池内遺跡/縄文時代前期)などが知られます。
ヒメグルミのペンダントは、縄文人の豊かな精神文化が垣間見える逸品といえるでしょう。
(中川治美)
《参考文献》
・滋賀県教育委員会・財団法人滋賀県文化財保護協会1997『粟津湖底遺跡 第3貝塚』
・「251粟津湖底遺跡第3貝塚出土のヒメグルミの垂飾品―縄文時代のくるみの選択に関する覚え書き―」『滋賀文化財だより』No.227 財団法人滋賀県文化財保護協会1996