調査員のおすすめの逸品 №279-3 浅井氏と朝倉氏との交流の証 長浜市 小谷神社石造狛犬 (後編)

 ◆秋季特別展にて公開

写真5: 『動物美術館』

写真5: 『動物美術館』


 さて、滋賀県立安土城考古博物館では昨秋、令和元年度秋季特別展として「『動物美術館』開演!」を開催しました。そもそも本展は、滋賀県が狛犬の宝庫で、江戸期以前の木造狛犬の数では47都道府県中最多であることから企画したものです。数に加え、近江には平安から江戸に至る各時代の狛犬作品、とりわけ紀年銘遺品が揃うなど、県内の作品だけで日本狛犬史をある程度辿ることができるという利点もあります。但し本館の秋季展では、考古展示をするという縛りがあり、狛犬だけを展示するわけにはゆきません。そこで、狛犬をはじめとする各種宗教美術の動物表現をメインにしつつ、冒頭に動物埴輪を並べ、近世の動物画も加えた展示内容を構想しました。結果的に古墳時代から幕末期まで、日本の動物造形のアウトラインを提示することができたように思います。
 狛犬展示は、本展の中核なので特にその展示構成には意を尽くしました。各時代の木造品を中心に石造・陶磁作品を加えることによって、代表的な三種の材質の狛犬、都合106躯を展観することができたのは幸いでした。このうち、27対と一躯の木造狛犬は、4対を除き近江伝来品です。また、18対の石造狛犬のうち、笏谷石製の10対は全て近江のもので揃え、近江には見当たらないそれ以外の石造品については、丹後半島など、他県から出座願いました。さらに、陶磁の狛犬については、県内には古遺品が殆ど見られないため、4対及び7躯の作例は、愛知県下のものを中心に全て県外から選定しています。すなわち、本展の展示リストは、図らずも近江の狛犬の造像傾向や分布状況を示すこととなりました。その中心は無論木造狛犬で、平安から江戸時代に亙り連綿と制作・安置され、室町後期からはそこに越前笏谷石製の石造狛犬が徐々に加わるようになります。しかし、それ以外の石造品は幕末期まで殆ど普及せず、陶磁の作品もごく僅かな例を見るのみです。このような近江における狛犬の歴史の中で、本像は県下の石造狛犬の劈頭を飾る重要な位置づけとなるわけです。本像はいわば、展示構成における一つの目玉であったと言えるでしょう。
 本展では、記念講演会を明治大学の川野明正先生にお願いするとともに、もう一つ、展示会場でのギャラリートークと2階講演会場での狛犬研究発表、そのトリを三遊亭円丈師匠にしめて頂くという「丸ごと一日・狛犬尽くしフォーラム」を企画しました。今回、これが実現したのは、予算の少ない当館の事情にも拘わらず一肌脱いで下さった円丈師匠の義侠心と、報告者二氏をはじめとする多くの方々のご協力の賜物と言えるでしょう。当日、ギャラリートークには、通常の倍ほどの約60名の方々が参集し、セミナーも100名近い方々の熱気で、古美術ファン、狛犬マニアの層の厚さを実感させられました。
 滋賀県立安土城考古博物館は、大河ドラマや話題の映画などで戦国時代が取り上げられ、信長が登場すると客足が伸び、そうした風が吹かないと客足が途絶えるという傾向があります。昨年はまさに風のない年だったのですが、蓋を開ければここ数年の秋季展で最も来館者が多く、アンケートにも熱を帯びたコメントが種々寄せられていました。無論、博物館は社会教育施設なので、ただ入館者が増えればいいというものではありません。本展では、指定品や著名な作品とともに、新発見資料や初公開資料なども交えて多種多様な作品を揃え、展示方法によって当館の狭小な展示スペースの制約を破るなど、いわば身の丈を超えるような展覧会を打ち出しました。また、本像をはじめとする未指定品についても、その持つ意義を学術的に明らかにするように意を用いました。手前味噌ですが、こうした工夫が、もっと勉強しようという人々の支持につながったと思っています。今年は麒麟効果でさらに活況を呈するでしょうが、火天の城ブームもお江ブームも一時の賑わいを見せただけで長続きしませんでした。麒麟ブームの消えた時に足を運んで博物館を支えて下さるのが、こうした熱心なファンやマニアの皆さんであることを忘れないようにしたいものです。来館者にリピーターになってもらうには、今後も地道な調査研究と展示方法や図録内容などにわたる様々な工夫が必要となるでしょう。(山 下 立)

(参考文献)

筆者編『動物の造形』(滋賀県立琵琶湖文化館展覧会図録、2002年)
筆者編『「動物美術館」開演!』(滋賀県立安土城考古博物館展覧会図録、2019年)
拙稿「近江における笏谷石製狛犬」(『日引』14号、2015年)
拙稿「近江の狛犬 基礎資料集成(稿二)」(『滋賀県立安土城考古博物館紀要』23号、2016年)

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