調査員のおすすめの逸品 №274 隠れキリシタンの遺品!? 聖母マリアのメダリオン

草津市で見つかり寄贈されたメダリオン

草津市で見つかり寄贈されたメダリオン

 
 令和元年10月1日、安土城考古博物館の所蔵品に不思議な逸品が加わりました。聖母マリアを浮き彫りにしたメダリオン(大きな徽章やメダルの付いた飾り)です。マリアは処女性の象徴である三日月に乗って合掌し、首を少し右に傾けています。頭上には7つの星、背後には太陽の光を表すギザギザ模様が配されています。
 これは「無原罪(むげんざい)の聖母」と呼ばれる図像で、キリストの母であるマリアは、男女の交わりなく母アンナから生を受けたため、すべての原罪から免れていることを示してます。
 メダルは縦10.3㎝、横7.2㎝の楕円形で、上に径1㎝の鐶がついており、手のひらにちょうど乗るくらいの大きさです。首から下げて手のひらと胸に押し抱きながら祈りを捧げたのか、紐などに吊るして祭壇に掛けて祈ったのか、その使われ方はよくわかりません。というのも、このメダリオンが発見された家の人たちですら、その存在を全く知らなかったのです。
 昭和40年頃、草津市の旧家・草川家で、家の改築のため仏壇の阿弥陀如来を移そうとした際、その台座の隙間から、布で包んだメダリオンが、コロンと出てきたそうです。家の人々は熱心な仏教徒で、そのような物が家にあるとは夢にも思わず、驚かれたそうです。ただ、思い起こすと、隣接する寺の墓地に昔はキリシタン墓らしきものもあったと語る人がいたり、「何人といえども夕食を出してはいけない」という戒めが記された古文書があったとも伝わりますが、今となっては証明するすべがありません。
 16世紀中頃に我が国に伝わったキリスト教は、人々の間に急速に広まりますが、やがて豊臣秀吉や徳川幕府など時の権力者に禁じられ、一部の信者は200年以上の間、弾圧を受けながら密かに信仰を守り続けてきました。2018年7月、そのような隠れキリシタンの遺跡が、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として、ユネスコの世界文化遺産に認定されました。滋賀県内ではそのような遺跡や遺品は確認されていませんが、大阪府茨木市の山あいには隠れキリシタンの信仰の伝わるところがありますので、ありえない話ではなさそうです。
 隠されてきた謎の逸品なので、判断が難しいのですが、奈良大学の協力で蛍光エックス線分析を行った結果、主成分は銅・錫・鉛・鉄・亜鉛で、中でも銅と錫の割合が高いことから、「青銅」製であることがわかりました。茨木市のメダイ(小型のメダル装飾品)は7点が青銅(国産)で1点が真鍮とのことで、草津のメダリオンも成分的には問題ないことがわかりました。
 また、実は同じメダリオンが、既に国内で5点確認されています。長崎県内に3点、大阪の南蛮文化館に1点(金沢で発見)、東京国立博物館に1点で、東京のものは長崎奉行所キリシタン関係資料として、一括で重要文化財に指定されています。これらの関係は、まだ十分な比較研究ができていませんが、同じ笵(はん)から作られた兄弟か、どれかから型を取って作られた親子の可能性もあります。いずれにしても、禁教時代に新作や入手は難しいと思われますから、16世紀から17世紀の遺品と考えてよいのではないでしょうか。
 寄贈になったことで、今後の比較研究が進むことが期待されます。
 なおこのメダリオンは、12月27日まで、滋賀県立安土城考古博物館で寄贈記念特別公開していますので、興味のある方はぜひご来館下さい。来春の春季特別展にも出陳予定です。
(高木 叙子)

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