調査員のおすすめの逸品 №270 縄文人の落とし物を1万年後の縄文人がリサイクルした

 

写真1:下羽田遺跡出土削器

写真1:下羽田遺跡出土削器

 東近江市の下羽田遺跡を発掘していたある日、良質な青色をしたチャート製の石器(写真1)が出土しました。その石器は細長く、左右両方が折れていました(折られていたのかもしれません) 。刃および背に丁寧な加工が施されており、今のナイフのような刃器あるいは削器と呼ばれる縄文時代に通有の石器です。遺跡からは、縄文時代の終わり頃の住居や墓跡が見つかり、この石器もこの時代のものであったと考えられます。
 ここで私は引っかかりました。何が引っかかったかというと他の石器はすべてサヌカイトという石材が用いられているのにこの石器だけがチャートという石材が用いられている点と左右が折れている点です。この付近にある縄文時代の終わり頃の遺跡では、チャートという石はほとんど使用されておらず、左右が折れているような削器は見たことがなかったからです。左右の折れがなければ、かなり横長の削器になります。経験上、このような縄文時代の終わり頃の石器はないと思います。
 そうこうするうち発掘が進み、縄文時代草創期の白色をしたチャート製の有舌尖頭器(写真2)が見つかりました。この遺跡では、過去にも八日市市教育委員会の発掘調査でサヌカイト製の有舌尖頭器が見つかっており、この周辺では縄文時代草創期の人々がイノシシやシカの狩猟をしていたようです。この石器を見て直感しました。
写真2:有舌尖頭器想定図

写真2:有舌尖頭器想定図

これは1万年前の縄文時代草創期の狩人が落とした有舌尖頭器をたまたま1万年後の縄文時代の終わり頃の人が見つけたのです。そして、石器の左右を折り、自分たちが使いやすい大きさの削器へと再加工したのです。
 しかし、この削器から明確な有舌尖頭器の時の加工痕はあまりわかりません。このことから、未だこの解釈は私の個人的な見解に留まります。有舌尖頭器は狩猟用の投げ槍の先に付けて使用したと考えられ、移動しながら狩猟しているため、1遺跡から1点の出土が普通です。しかしながら、下羽田遺跡からは削器を除き、2点出土しており、縄文時代草創期には、すごく良い猟場であったのか、縄文草創期の集落が近くにあったのかもしれません。いずれにしても、有舌尖頭器が拾える環境にあったことは間違いありません。
 この削器を見つめることで、縄文人が私たちと同じように「もったいない」の精神をもっていると思うとともに、昔の人を身近に感じるのは私だけでしょうか。こういった意味でこの石器は、私にとっての縄文人の日常と現代をつなぐ「逸品」といえるのです。

(中村 健二)

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