調査員のおすすめの逸品 №268  古代の食器に何か飾りが!?

 この記事をご覧の方々、もしお手元にお茶碗もしくは何かしらの器をお持ちであれば、その器の外面・内面を今一度眺めてください。ご覧になっている器には、きっと何かしらの模様が書かれていることでしょう。陶器、磁器、プラスチック……様々な素材で作られる現代の食器は、多種多様な装飾が施されています。
 古代の食器はどうでしょう? 奈良三彩や唐三彩と呼ばれる、釉薬を用いた器はあることにはありますが、その数は非常に少なく、高級品でした。庶民や下っ端の地方役人が用いることの出来るような食器は、もっともっと簡素な、粘土で作られた須恵器や土師器と呼ばれる、一見したところではなんとも味気ない食器で、博物館などでもまとめて展示されることが多いものです。
 しかし、注意深くモノを観察すると、そのような簡素な食器の中にも、表面にうっすらと線で文様が描かれている土器に出会うことがあります。この線の文様は『暗(あん)文(もん)』と呼ばれます。土師器のなかでも主に皿や椀、杯(つき)と呼ばれる食器に施されていることが多く、乾燥させる過程で土器の表面をヘラのような道具で磨くことによってこのような文様をつけることが出来るのです。さて、この暗文は、食器として土器を使う際にはなんら機能を持つものではありません。実際、暗文を施している土器が少数であることからも、土器を作る上で絶対必要な工程では無かったことがうかがい知れるでしょう。

写真1:うずまき状に書かれた暗文

写真1:うずまき状に書かれた暗文


 では、暗文は何故施されたのでしょうか? 現在のところ、当時の最高級品の食器であった金属製の器を真似ている文様ではないかと考えられています。器の中央から放射状に伸びる線、器の底でぐるぐると渦を巻いている線、器の端で波打つように描かれる暗文は、金属製の器が光を受けてキラキラと輝く反射光を模しているのでは、とされています。
 そして、これらの土器は、天皇の住居であった宮殿よりも、その周囲の市街地であった京域や、地方の役所などから良く見つかります。古代における天皇及びその周囲の高級役人は最高権力者なわけですから、当時最先端であった金属製の食器を使っていたと考えられます。暗文の施された食器は、そのような高位の人々が住まない京域から出土していることから、中・下級の役人が使っていたと考えられます。

 つまり、暗文の施された食器は、金属製の食器を使えないぐらいの下級の人々が、その文化に憧れてちょっとでも似せようと頑張った、「真似っ子食器」と言えるでしょう。

写真2:放射状に書かれた暗文

写真2:放射状に書かれた暗文

古代の人々も、飾りっ気も無く、味気ない土器でご飯を食べるよりは「気分だけでも高貴な気分に浸ろう」と考え、一見実用性もない、このような文様を施したのかもしれません。器の作製に一手間を加えてでも器の美しさを追求する古代人の姿勢は、今の私達が美しい食器を愛でる姿勢と変わらないものかもしれませんね。実をいうと、私も古代人の作った飾りに魅入られて、いつの間にか土器に魅せられてしまったクチなのです。もし博物館で土器を見る機会があれば、「なにか飾りがあるかも!」と探してみてはいかがでしょう?

(遠藤 あゆむ)

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