
木製壺鐙
「鐙(あぶみ)」とは乗馬する際に足先を掛けるための馬具で、人がまたがる「鞍(くら)」から革紐などで吊り下げて使用されたと考えられています。今回ご紹介する「壺鐙」は木材を削って曲面に仕上げ、内部をくり抜いて足先が入るように加工したものですが、現在の競走馬には吊り革のような形をした「輪鐙」が使われています。
この木製壺鐙の出土は実に思いもかけない発見でした。蛭子田遺跡ではこれまでの調査によって、大きく蛇行しながら流れる河川に沿って竪穴住居を中心とする集落が形成されていたことがわかってきました。特に河川跡からは大量の土器類や、農具や建築部材といった木製品が多量に出土し、人々の活発な活動の痕跡が確認されています。

出土した川跡
残念なのは私が調査区を少し離れたほんの数分後に出土したこと。補助員さんからは「小林さんがいなくなったら出てきましたね。」と言われ、人生うまくいくことばかりではないことを知りました。
さて、古代の木製壺鐙は全国的に見ても20数例が知られるのみで、県内では東近江市(旧能登川町)の斗西遺跡に次いで2例目の事例となります。現在のところ、長野県榎田遺跡例の5世紀中葉~6世紀初頭頃が最古の事例とされます。一方、蛭子田遺跡出土の壺鐙は、一緒に出土した土器から5世紀後半~6世紀前半頃と考えられることから、全国的にみても最古級の事例といえます。

出土状況
馬に乗り上がるための足掛かりとなる「鐙」。駆け出しの私にとって、現場とともにステップアップしていく姿勢をずっと忘れるなよと語りかけているように思えてなりません。
(小林裕季)