
古瀬戸筒型香炉出土状況
出土したのは6月初めごろ、初夏の日差しが強くなってきた頃でした。遺構を検出する作業を終え、検出された溝を掘り進めました。埋土である暗黒褐色の土を掘り下げ ていくと「主任さん、なにかでましたで」と溝の掘削をしていた作業員さんが声をかけてきました。急いで作業員さんのところに駆け付けてみると、確かに淡い黄緑色の 口縁部が顔を出しています。私は、「とりあえず慎重に周りを掘り下げてください」とお願いしました。そして、しばらくすると、「主任さん、これ全部残ってるで」と 声をかけられたので行ってみますと、何と完品の陶器が姿を現していました。

古瀬戸筒型香炉
この周辺の遺構からは、青磁の碗などの輸入品の陶磁器も出土しています。もちろん、出土品の中には、日用品である土師器の皿や信楽の擂鉢などもありますが、出土し た筒型香炉や青磁の碗などは、非日常の「雅(みやび)」で「風流な」香りが漂ってきます。完品の姿・形の美しいこの香炉、自分の調査した遺跡で出土した最も印象に残っ ている逸品です。
(坂下 実)
《参考文献》公益財団法人滋賀県文化財保護協会『浄土屋敷遺跡現地説明会資料』2008