ずいぶん前(第8回)に木製下駄をとりあげた、近江八幡市安土町の大中の湖南遺跡から、もう1つ思い出に残る遺物を紹介したいと思います。

第2遺構検出状況(中心部)
今回紹介する刀子(とうす)は、第2遺構の南端に近い当時の湖底面から、刃先を下に向けてつきささった状態でみつかりました。ほぼ完全な形で、長さ17.1㎝です。刀身(とうしん)は平造りで、柄の中に納まった茎(くき)の部分は、X線写真により刃の部分の半分程度の長さであることがわかっています。また、刃と柄の間には、刀身を鞘(さや)に固定するための銅製の鎺(はばき)がはめ込まれています。柄(え)は、装飾のない木製のものです。

刀子出土状況
遺跡から見つかる鉄製刀子には、木製の柄(え)が残っていることがめずらしいため、遺跡の発掘調査中に自分で見つけた時には、その状態の良さにとても感動しました。慎重に柄の部分をつかんで、取り上げた時には、錆びてはいましたが鋭利な刃先が残っていました。周囲をさらに調査して、これと組み合う鞘(さや)を探しましたが、見つからなかったのでとても残念に思っています。

刀子(現在)
≪参考資料≫
滋賀県教育委員会・財団法人滋賀県文化財保護協会(2005)『ほ場整備関係遺跡発掘調査報告書32-2 芦刈遺跡・大中の湖南遺跡』
(田中咲子)