遺跡の調査に携わる者なら、誰しも自らが調査する遺跡で目の前に現れた遺物や遺構に感激したり、興奮したことがあると思います。私も約25年間滋賀県内の遺跡の調査に携わり、いろいろな遺構や遺物と出会ってきました。今回は、いい遺物に出会ったにもかかわらず、報告のしかたがまずく、ほとんどの人がその存在すら知らない遺物のお話をしたいと思います。

泥の中から姿を現したガラス玉
調査を始めてすぐのある日、水がジクジクと湧いてくる低湿地の堆積層の上から掘られた溝と思われる遺構を掘っていました。低湿地の堆積物の上から掘られた遺構ですので、当然この溝も内部に堆積している粘土を掘ると水がじわじわと湧いてきます。掘っていると粘土と水が混じり合って、さながら泥遊びをしているようなひどい状態でした。そんなひどい状況にもかかわらず、掘り進むと須恵器や土師器がかなりたくさん出てきます。遺物が出土すると楽しくなり、皆の作業もはかどりますが、そんな作業の手が止まるような遺物が泥の中から現われました。

ガラス玉A面

ガラス玉B面

割口から見た写真(上がA面)
いずれにせよ、あまり出土する遺物ではなく、珍品であることは間違いありません。これは報告書ではカラー写真を掲載して大きく報告しないと・・・と思っていたこところ、私は違う部署へ異動してしまい、報告書は別の職員がとりまとめました。とりあえず原稿は書いてくれということで執筆しましたが、ほかの編集はおまかせしました。ところが、仕上がってきた報告書を見てびっくり!この遺物に関しては実測図と私の書いた本文の記述のみが掲載されていて、遺物写真はモノクロ写真もましてやカラー写真もありません。「え~何で!」そしてこの遺物は存在を消したかのように、収蔵庫の奥深くに収納されてしまいました。そんな遺物にスポットライトを当てたくて、今回は恥を忍んでご紹介した次第です。
まさに打合せ不足が招いた悲劇。皆さん、仕事はやっぱりコミュニケーションが一番ですね。それから、このような遺物を御存知の方がおられましたら、ご一報いただけますと幸いです。
(岩橋隆浩)