
木製短甲出土状況
色々と観察すれば、剣道の「胴」のようにも見えてきます。首が当たる部分には抉りが入れられ、腕が当たる部分もちょうど良いカーブに加工されています。また、裾と思われる部分は、少し外側に反っています。用材はカエデ。外側には黒うるしが塗られ、縦横に小穴が開けられ、革ひもを通して模様としていたようです。こうした特徴から、これは樽ではなく、木製の短甲と考えました。
短甲とは甲冑の一種で、腰から上の胴や胸・背中などを保護する武具を指します。古墳時代では最も一般的な武具で、全国の古墳から多く見つかっています。しかし、それらはいずれも鉄製品で、弥生時代の事例を含めても、当時、木製の短甲は全国でも数例しか出土していませんでした。しかも、数少ない類例の1つである静岡県伊庭遺跡例は、複雑な模様が彫刻され、実用品というよりも祭祀用と考えられるもので、もう1つの奈良県坪井遺跡例は、鉄製の短甲を木で模倣したと考えられるものでした。実用品と考えられる木製短甲の実像を示すという意味からも、松原内湖遺跡から出土した短甲は、貴重な事例となった訳です。

保存処理済の木製短甲
そんな時は、復元品を作ってしまえ! 手先の器用な調査員の一人が、その後、復元品を作成しました。これによって、あれこれと装着を繰り返してみた結果、身長150㎝ぐらいなら、前胴としてもほとんど動きの妨げとならないこと。逆に後胴とした方が、腰の動きなどが苦しくなる可能性があることなどがわかってきました。今ではこれを前胴と決定し、木製短甲には木製短甲独自の形状があったと考えるようになりました。

復元した木製短甲
今ではすっかり樽のような体形になった私ですが、子供たちがこの復元短甲を身に着けている姿を見れば、若かりし、スマートな頃を思い出し、もう一度初心に戻って、発掘調査に従事しようと、やる気が燃えてきます。
と言うことで、皆様、「レトロ・レトロの体験フェスタ2013」にお越しいただき、木製短甲の装着を体験してみてください。そして、暑さに負けず、暑さをはねかえし、今年の夏をのりきってください。
(細川修平)