調査員のおすすめの逸品149 「コンパニオン・アニマル?!-米原市能仁寺跡でみつかった埋葬骨-」

鎌倉時代以来の武家の名門・京極家の菩提寺「清瀧寺徳源院(せいりゅうじとくげんいん)」を中心とする「清滝寺(きよたきてら)遺跡」の一画に、京極高詮の寺「能仁寺(のうにんじ)」跡があります(HP新近江名所圖会第17回参照)。
2010年、能仁寺跡から中世の墓と埋葬骨がみつかりました(写真)。埋葬骨は、専門家に鑑定していただいた結果、20~60歳くらいの成人男性と判明したのですが、骨のなかに人と断定できない動物骨が含まれている可能性がある、ということなのです。なにぶん焼けて細かな破片となっているので、肉眼での鑑定は非常に困難です。そこでもう少し詳しく分析してみることになりました。
 

能仁寺跡の中世墓(復元)

能仁寺跡の中世墓(復元)

愛犬?愛馬?それとも?!――結局、最終的には分析した資料はすべて人骨ということになったのですが、この間数か月、個人的には少しわくわくしていました。庶民が立派な墓を持てない時代にあって、当時の社会の実質的最上級階層にあった武家の墓に、動物が一緒に埋葬されているかもしれない!さぞ大切に想われていた動物に違いありません。同時にではないのでしょうが、後からの埋葬(追葬)という形で同じ墓に葬ることがあったかもしれません。現代でも動物と人が一緒に埋葬される例は稀ですが、もしそうだとしたら貴重な事例となるところでした。動物、とりわけ猫好きの私としては、わくわく感いっぱいなのです。
近年放映されたテレビドラマで映画にもなった『猫侍』という作品があります。猫と侍のラブ♡ラブぶりを描いた?!もので、かなりデフォルメされた設定にも思われがちですが、動物への熱愛、という点では、今も昔も変わらないかもしれません。動物によって癒され、その仔を失うと深い悲しみと喪失感に襲われる――近年ではアニマルセラピー、ペット・ロスなどの語があるように、江戸時代には広く庶民も動物と暮らすようになりますが、気持ちは同じだったかと思います。(動物嫌いの方には顔をしかめられてしまうかもしれませんが。)

ねこ-コンパニオンアニマル

ねこ-コンパニオンアニマル

江戸時代にはいくつかこうした様子をうかがわせる例があります。仙台藩の下屋敷である東京都品川区仙台坂遺跡では生後1歳前後の大型犬が埋葬され、また大名屋敷である東京都港区・汐留遺跡や旗本屋敷跡である東京都文京区・真砂(まさご)遺跡では猫が埋葬されていました。当主は第三代藩主・伊達綱宗と考えられています。こうした例のなかには、洋犬など“舶来もの”の所有を誇示することで権威を示す目的を持つものもあったかもしれませんが、動物のための墓という点では注目されます。また何より素直に愛情を感じるものもあります。旗本屋敷である東京都港区・白銀館跡遺跡からは“三途の川の渡し賃”であろう銭・寛永通宝を添えられた犬が埋葬され、寺院跡である東京都港区・伊皿子(いさらご)貝塚遺跡では犬と猫の墓石・供養塔がみつかっています。墓石には戒名と生前の名前が確認できます。こうした例は武家屋敷だけではありません。町人が住まう東京都港区・芝新明町屋敷遺跡でも大型犬の埋葬例があります。
前述の能仁寺の埋葬骨は室町時代のもので、もう少しさかのぼるのですが、人と一緒にあるいは同じスペースに埋葬されることがまったくなかったとも言い切れません。当時の宗教観については十分に解明されているわけではありませんが、私にとって能仁寺の埋葬骨は、人と動物との関係を改めて考えさせてくれた逸品です。
*コンパニオン・アニマル(companion animal):コンパニオン(Companion)は仲間、連れ、付き添いなどを意味する英語。コンパニオン・アニマルは人間の伴侶動物ともいわれ、心を通じ合う対象として考えようとする立場から用いる語。
(中川治美)

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