新近江名所圖會 第378回 他に類を見ない摩崖仏の傑作―狛坂摩崖仏―

 紫香楽宮(しがらきのみや)跡の北方に広がる山地、現在の栗東市南部と湖南市にまたがる地域には、東大寺を開山した良弁(ろうべん)による開基を伝える寺院がいくつも存在します。空海が密教を体系的に伝える以前の「雑密(ぞうみつ)」(※1)と呼ばれた山林修行の場であったのでしょうか、野洲川右岸には少菩提寺(しょうぼだいじ)跡、正福寺、善水寺、左岸には阿星山(あぼしやま)を中心に金勝寺(こんしょうじ)、常楽寺、長寿寺など、湖南仏教と呼ばれる名だたる寺院・山岳寺院が集まっています。同じ山中に飯道(いいみち)神社(※2)、西に少し離れて太神山(たいじんさん)不動寺(※3)といった修験道の聖地が存在するのも当然のことかもしれません。
 このあたりには優れた摩崖仏・石仏、石塔・石造品が分布することも知られています。今回ご紹介する狛坂摩崖仏(こまさかまがいぶつ)は、そのなかでもっとも優れた石仏のひとつで、国の史跡に指定されています。
 如来坐像と2体の脇侍からなる三尊像を主体に、その周囲にも彫りの浅い小仏像が配置されています(鎌倉時代の追刻)。如来像は阿弥陀・弥勒・盧遮那(るしゃな)仏など諸説あって一定しないそうです。製作年代も白鳳時代(7世紀)、奈良時代後半、平安時代と諸説ありますが、脇侍の足が左右に開いている点が統一新羅(しらぎ)のものと共通するという見解は一致するようです。北魏~唐風のおおらかな雰囲気が感じられるのはそのせいでしょうか。如来像の像高は2.2m、これらが彫られている岩の高さは6.3mとかなりの大きさです。(写真1)

写真1 狛坂摩崖仏

写真1 狛坂摩崖仏


 ※1:奈良時代までに伝来した、大日如来(だいにちにょらい)以外の諸尊の真言や修法(しゅほう;仏の呪力を願う儀式の一種)を行う現世利益中心の密教。
 ※2:中世から近世に栄えた修験道の寺院・飯道(はんどう)寺の神宮寺であった神社。飯道山(はんどうさん)山頂近くに在り、現在も修験者の行場(ぎょうば)となっている。
 ※3:太上山(たなかみやま)頂上近くにある天台寺門宗の寺。

おすすめポイント
 苦労して山中の道を進み、静かな林の中からこの大きく整った摩崖仏に出くわすと、不思議な感動を感じます。文筆家の白洲正子氏は「磨崖仏は聞きしに優る傑作であった。・・・奈良時代か平安初期か知らないが,こんなに迫力のある石仏は見たことがない」(『かくれ里』より)と書いているほどです。
 白洲氏も記しているとおり、狛坂摩崖仏までの山道は険しいです。訪れるにはハイキング用の靴・服装が必須です。

周辺のおすすめ情報
○金勝寺(こんしょうじ)(新近江名所圖会第111回)
 金勝寺は狛坂摩崖仏をまつる狛坂寺(現在は廃寺)を末寺とする、湖南仏教の中心寺院のひとつです。湖南市の少菩提寺に対して、こちらを大菩提寺と呼んだとか。周囲の遺構からかつては多くの坊院が並んでいたことがうかがえます。いまはひっそりとしながらも重要文化財の釈迦如来坐像、軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)像と迫力のある仏像を所蔵されています。門前には駐車場がありますので、車で参拝にうかがえます。
 ※季節によっては拝観できないこともあるので事前に確認されることをおすすめします。
(金勝寺里坊:℡077-558-0058)

○道の駅こんぜの里りっとう
 昭和50年に全国植樹祭の会場となったところ。オン・シーズンの土日祝日にはJR手原駅から道の駅までコミュニティバス(こんぜめぐりちゃん)が運行しており、また駐車場もあるので、金勝寺・狛坂摩崖仏へのアクセス拠点になります。お土産物売り場を楽しめるほか、森林浴にもいいかも。

写真2 馬頭観音前駐車場からの景色

写真2 馬頭観音前駐車場からの景色


○馬頭観音(ばとうかんのん)前駐車場
 栗東側から狛坂摩崖仏への最寄の駐車場です。10台ほどしか停められませんが、ここから望む湖南平野は絶景です。これを見るためだけでも訪れる価値ありです。(写真2)
 湖南アルプス・ハイキングコースの出発点のひとつになっていて、コース中には奇岩怪岩の景色が楽しめるほか、随所に石仏が残されていて山岳仏教の名残もうかがうことができます。

○栗東歴史博物館
 狛坂摩崖仏から離れていますが、山道に自信のない方にはこちらをおすすめ。玄関ロビーの奥に実物大レプリカが展示されています。
(伊庭功)
アクセス
【自家用車】
《栗東市側から》…道の駅「こんぜの里りっとう」(名神栗東I.C.より20分/新名神信楽I.C. より25分)から金勝寺を経て馬頭観音のお堂前の駐車場で車を降り、そこから険しい山道を上り下りして約60~90分。
《大津市側から》…上田上(かみたなかみ)町の桐生(きりゅう)キャンプ場の駐車場(オン・シーズン中は有料)から草津川沿いの道を登山します。(約120分)
【公共交通機関】
《道の駅「こんぜの里りっとう」へは》…[こんぜめぐりちゃんバス];JR手原駅から旧和中散本舗、大野神社、九品(くほん)の滝などをめぐり、道の駅「こんぜの里りっとう」、金勝寺までを往復するコミュニティバス。春(4月上旬~6月)と秋(9月中旬~11月下旬)の期間中の土日祝日限定運行。(詳細は(一社)栗東市観光協会・℡077-551-0126にご確認ください。)
《桐生キャンプ場近くの登山口へは》…JR草津駅から路線バス[帝産バス上桐生線]上桐生バス停下車。
※※いずれのルートも摩崖仏への道は完全な山道なので、しっかりした足回り、非常食の携行が必要です。

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