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よみもの : 新近江名所図会 :
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- 新近江名所圖會 第386回 膳所(ぜぜ)城下町を散策する―大津口から膳所神社―(前編)
- 新近江名所圖會 第385回 黒金門(くろがねもん)跡―特別史跡安土城跡―
- 新近江名所圖會 第384回 江戸時代の町人文化を伝える―大津祭曳山展示館
- 新近江名所圖會 第383回 岩間寺(いわまでら)―大津市と宇治市の境の山寺
- 新近江名所圖會 第382回 大津宿を訪ねて―逢坂(おおさか)峠から浜大津付近までを歩く―
- 新近江名所圖會 第381回 カメカメエブリバディ―カメにまつわるお話―草津市南笠町治田神社
- 新近江名所圖會 第380回 中世の趣き漂う建物群―甲賀町油日(あぶらひ)神社―
- 新近江名所圖會 第379回 お寺の境内にある小山は実は古墳だった―野洲市久野部1号墳―
新近江名所圖會第235回 収蔵室という名の科学施設 -滋賀県立安土城考古博物館の第一収蔵室-
近江八幡市にある滋賀県立安土城考古博物館では、出土した遺物などの整理作業を見学していただく回廊展示が設けられています。ここから見学できる施設のひとつに、第一収蔵室があります。この場所では出土した木製品を一時保管し、保存処理を行っています。(写真1)。
木製品は、地下水が豊富な場所から出土します。木の主成分は無くなっているものの、代わりに水を含むことで形を保っています。乾燥すると表面がひび割れたり、大きく変形したりして本来の形が失われてしまうため、保存処理をするまでは水漬けの状態で置いておく必要があります。小さなものはコンテナに入れ、それよりも大きなものは、床下に造られた水槽の中に入れています。水槽は、大きなものでは長さ11m・幅2m・深さ1.3mの規模があり、普段は木製の蓋で覆われています。
収蔵室の奥にステンレスでできた大きな長細い装置があります。木製品を保存処理するための機器です(写真2・3)。この装置を使って、ポリエチレングリコール(PEG)含浸処理法と呼ばれる方法で処理しています。これは最も普及している比較的安全性の高い方法で、木製品に含まれている水と合成樹脂であるPEGを置き換えて補強していきます。工程としては、木製品を漬けた水に溶かすPEGの濃度を20%から徐々に上げていき、最終的には100%の濃度になるようにして、ゆっくり置き換えていきます。濃度が高くなると常温では解けないため、この装置には熱を加えられる機能が備わっています。標準的なものでは半年から1年程度の期間で仕上り、大きさによってさらに期間が必要になるものもあります。
なお、この収蔵室の周辺には、嗅ぎなれない臭いがしているかもしれません。PEGは無臭なのに、どうしても処理の過程で臭いが発生してしまいます。この場所で仕事をしている私たちはほとんど気になりませんが、ここを訪れる人の中には手で鼻を押さえるほど臭く感じる方もおられます。
収蔵室の中にあるもう一つの装置が、真空凍結乾燥機です(写真4)。フリーズドライ食品という言葉を聞かれたことがあるでしょうか?お味噌汁やインスタントコーヒーなど、お湯をかけると元の状態に戻る食品で、この装置と同じ原理で作られています。真空状態にして気圧の低い環境にすると、水は氷点下で、氷(固体)の状態から水(液体)にならずに水蒸気(気体)へと変化し、昇華をおこします。そのため、凍結して硬くなったものを、形が変わることなく乾燥させることができるのです。木製品の場合は、PEGを40%浸みこませたあとに、-40度で凍結させて乾燥させます。PEGだけで処理するのに比べて、色が明るく仕上がるなどの利点があり、文字が書かれた木簡などの処理に適しています。
第一収蔵室を見学できるガラス扉は、回廊の隅にある少し薄暗い場所にあります。博物館に来られた際は、見逃さないように、ぜひのぞいて見てください。(中村智孝)
アクセス
公共機関:JR琵琶湖線「安土駅」より徒歩25分。レンタサイクル10分(割引券)
自家用車:名神高速道路竜王I.Cまたは八日市I.Cより車で30分 名神高速道路蒲生S.I.Cより車で25分。国道8号線西生来交差点を経由して加賀団地口交差点を右折