(東近江市政所町・蛭谷町)
白洲正子の名作『かくれ里』(1971刊行)には、近江が度々登場します。今回御案内する奥永源寺の小椋谷(おぐらだに)に展開する集落は、作品の中で「木地師(きじし)の村」として紹介されています。正子はこれらの村々を「木地師の部落はいつしか私の心の中で、一つの象徴と化していった。今は失われた日本の姿、人間本来の生活が、そこには生き続けているように思えた。」と語っています。実際ここを訪れると、時の流れが止まったような、あるいは信じられないぐらいにゆっくりと流れる時間を肌に感じる思いがします。

政所八幡神社参道

政所八幡神社惟喬親王墓
もう一つ政所で忘れてはならないものに、「お茶」があります。「宇治は茶処、茶は政所」と歌われたように、政所は隠れたお茶の名産地でした。ここの茶樹は一株一株丸い玉のように仕立てるのが特徴です。ほとんどが自家消費され、市場にはあまり出回らない幻のお茶として、密かに愛好されています。

蛭谷の景観
神社には木地師資料館が併設されていて、有名な氏子駈帳(うじこかりちょう)が保管・展示されています(見学は事前予約が必要<小椋さん:0748-29-0430>)。これは、良材を求めて全国の山を流浪する木地師達の戸籍管理台帳です。流浪する木地師達の本籍を小椋谷とし、戸籍の管理をするとともに上納金を徴収し、その見返りとして種々の特権を与え、その生活を保障するという、大切な事務をここで行っていたのです。この事務拠点を「筒井公文所」と呼んでいました。
筒井神社には金属加工業者の納めた扁額がかけてあります。木工加工の轆轤ですが、旋盤もまた轆轤ということで信仰されているとのこと。
おっと、紙数が尽きてしまいました。この続きは次回に。合掌。

筒井神社
アクセス
【公共交通】近江鉄道八日市駅から近江鉄道バス市原線永源寺支所行きで終点下車、政所線に乗り換えて政所バス停下車、徒歩5分
【自家用車】名神高速道路八日市ICより国道421号線を東へ約40分
(大沼芳幸)